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東京高等裁判所 平成7年(ネ)2309号 判決

控訴人(原告)

近藤清一

被控訴人

棚橋照男

主文

一  原判決中控訴人の請求を六万〇七七七円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて棄却した部分を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、八万一〇三七円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

一  控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、一四万一八一四円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張は原判決の事実摘示のとおりであり、証拠の関係は原審及び当審の各記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

理由

一  控訴人主張の日、控訴人主張の場所において、被控訴人運転の普通貨物自動車(被控訴人車)と控訴人運転の控訴人所有の普通乗用自動車(控訴人車)が接触し、控訴人車の右前輪上部フエンダー及びバンパーが損傷を受けたことは当事者間に争いがなく、原審における控訴人本人尋問の結果と同尋問の結果により成立が認められる甲第五号証によれば、控訴人は、右損傷を修理するため修理代金二〇万二五九一円を支払い、同額の損害を被つたことが認められる。

二  本件事故の態様に関する当裁判所の事実認定は、原判決の理由二の1(原判決五丁目表二行目冒頭から同六枚目表二行目末尾まで)に説示するのと同じであるから、これを引用する(ただし、同五枚目表六行目中の「本人尋問」を「同本人尋問」に改め、同五枚目裏六行目中の「その分だけ」の次に「停車中の控訴人車の前方に」を加え、同八行目中の「接触し、本件事故に至つたこと」を「擦るように接触し、右フエンダー及びバンパーの表面に擦過痕の損傷が生じたこと」に改める。)。

三  右認定の事実によれば、被控訴人は、渋滞で停車した被控訴人車の左横に、控訴人が合流しようとして控訴人車の右前部を接近させていたのを、同乗の正裕の言動により認識し得たのであるから、被控訴人車を発進させるに当たつては、控訴人車の位置を的確に把握し、ハンドルを右に切るなどしてそれ以上同車に接近しないように運転すべき注意義務があるのに、この義務を怠り、前車が進行したのに応じて漫然と被控訴人車を発進させたため、同車の左後部側面を停車中の控訴人車の右前輪上部のフエンダーとバンパーに接触させて、同部分の表面に擦過痕の損傷を生じさせたものである。したがつて、被控訴人は、過失による不法行為者として、本件事故によつて控訴人に生じた損害を賠償すべき義務があるというべきであるが、一方、控訴人にも、右のような状況のもとで控訴人車を被控訴人車に極めて接近させて停車させた過失があり、これが本件事故の一因となつていると認められるから、被控訴人の損害賠償額を定めるに当たつては、控訴人のこの過失を斟酌すべきである。そして、本件事故の直接の原因が被控訴人車を発進させたことにあり、被控訴人がその際に僅かにハンドルを右に切りさえすれば容易に避けることができたものであること、その他右認定の本件事故の態様と程度に鑑みると、斟酌すべき控訴人の過失の割合は、損害額の三割とするのが相当である。

四  以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人に対し、控訴人の損害額二〇万二五九一円から過失相殺分として六万〇七七七円を減じた残額一四万一八一四円とこれに対する不法行為の日より後の平成五年四月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余を棄却すべきである。

よつて、原判決中右認容すべき金額と原判決の認容額との差額である八万一〇三七円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員についての請求を棄却した部分を取り消して、右部分についての請求を認容し、その余の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 小林亘 伊藤紘基)

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